2007年09月27日
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電子のデンコちゃん

Written By: 遠野秋彦連絡先

御注意:

本作品はいかなる現実の物理学や物理現象にも立脚しないファンタジーのフィクション作品であることをお断りしておきます。ここに書かれた内容を信じてテストに答を書くと、ほぼ確実に答えに×を食らうと思われますので御注意下さい。

 あたしデンコ。

 小さくて可愛い女の子よ。

 小さいから頭も軽くて知恵は足りないけど、元気だけなら誰にも負けないわよ。

 今日も原子核のまわりをびゅんびゅん雲のように飛び回っているんだから。

 でも、私には気になる人がいるんです。

 え、超レアお嬢様のヨウデンコちゃんかって? 確かに凄く心も身体も引かれるけど、あの娘はダメよ。滅多に見かけない高嶺の花と一緒になれると思うほど、あたしはバカじゃないわ。

 え、チュウセイコちゃん?

 あんな中性脂肪をいっぱい蓄えてそうな大きな娘もいやよ。私の理想は、小さくて可愛いままでいることなんだから。

 それじゃ、いったい誰に惹かれているのかって?

 うふふ。

 しょうがないわね。

 特別に教えてあげるわ。

 それは、ヨウコちゃんよ。

 大きな体で凛々しいの。

 ああ、ヨウコさま。

 いつもあなたのお側に置いて~。

 はっ。

 ダメよダメダメ。

 女同士でくっつくなんてダメ。

 それじゃレズだわ、百合だわ。

 なのに、ヨウコさまに近づくとグイグイと引き寄せられていく感じがするの。

 私って背徳の愛に生きる定めに生まれたの?

 ある朝、パンをくわえて電子軌道から飛び出して走っていると、いきなり横道から飛び出してきたヨウコちゃんにぶつかってしまったの。

 「いったぁ~い」

 「大丈夫、怪我はない?」

 優しく言ってくれるヨウコさま。

 私はもう、ぼうっとなってさまの身体から離れられない。

 「あの。ヨウコさま」

 「ヨウコさま? 俺のことかい?」

 「そうです! ヨウコさまは女と愛し合うのなんて嫌いですよね……」

 「女? 何の話をしてるんだい?」

 「あの、私と付き合ってください! 女同士ですけど、それでも付き合ってください!」

 「わはははは」

 「わたし、真剣なんです!」

 「いいかい、おつむの軽いデンシちゃん」

 「わたしデンコです!」

 「だから、読み方が違うの。君はデンコじゃなくてデンシ。女の子の名前じゃないの」

 「え!?」

 「で、俺はヨウシ。やっぱり女の子じゃない」

 「じゃあ、男の子?」

 「はっはっは。面白いことを言うね。僕らは小さな粒子で性別なんてないのさ」

 「じゃあ、こんなにもヨウコさま、いえ、ヨウシさまに惹かれるのはなぜ?」

 「それは僕の電化がプラスで、君の電化がマイナスだからだよ。プラスとマイナスは引き合うんだ」

 「引き合って、どうなるんですか? 身も心も1つになれるのですか?」

 「うん。そういうこともあるね。一緒になって1つの粒子になるよ」

 「ってことは……。もしかして、ヨウシとデンシが合体すると、あの超レアお嬢様のヨウデンコちゃん、じゃなくて、ヨウデンシちゃんに私達もなれるの!? ああ、なんて素晴らしいの! みんなが合体した私達を羨望の目差しで見るのよ!」

 「喜んでいるとこを悪いが、僕らが合体してなるのはチュウセイシなんだ」

 「えー。あの中性脂肪いっぱいで大きく太って見えるのあチュウセイコちゃんになっちゃうの!?」

 「ぼかぁ、幸せだな~」

 「そんなのいや~」

 2人が合体したチュウセイシは安定した鉄の原子核の中で末永く幸せに暮らしましたとさ。

 おしまい。

(遠野秋彦・作 ©2007 TOHNO, Akihiko)

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